ベトナムで1500円の偽ノースフェイスを買ったら、案外良くて困惑した話
懺悔します。
私ゆーとは偽物と知りながら、ベトナムでノースフェイスを買いました。
いやね、ほらむっちゃ寒かったんです。
何せ僕が今いるサパの気温はわずか9度。
(Sapa Vietnam,G7で撮影)
それでいて着ているものと言えば完全熱帯東南アジア仕様の短パンにサンダル履き。
「カナダに住んでたんだし、防寒具なんてなくたってラクショーっすよ」
なんて完全にベトナム北部の寒さを舐めてた。どのくらい舐めてたかと言えば、セル編のベジータくらい舐めてた。
一応長袖を着ている上半身はまだいいとして、ほぼむき出しになってる膝下に関しては、雨が直撃してて超寒かった。
ついでに言えば少数民族のおばちゃんたちや、欧州旅行者たちの視線も超痛い。あんたら寒さに強いんちゃうんか。Tシャツでニセコうろつくんちゃうんか。
かくして飛び込んだアウトドアショップ。そこで僕の目に目に入ったのが、大量のTHE NORTH FACE、THE NORTH FACE、THE NORTH FACEの山だったのです。
東南アジアに来たことある人なら多分見たことあるかもしんない。これこそが東南アジア名物の偽ノースフェイス祭り。タイからカンボジア、ラオスからベトナムまで、どこでもおなじみなのだ。
今までならば、僕だって「偽物だ」という理由だけで買う選択肢に入れることはなかった。
しかし今日は違う。悪魔が囁いたのである。
「偽物じゃダメなんですか?」
そうみなさま、私は悪魔の誘惑に屈したのであります。
ノースフェイスって何?
「てかノースフェイスってなによ?」
って人もいるかもしんないので、一応解説しておこう。ノースフェイスはアメリカのアウトドアメーカー。 高い。ジャケット一着で三万とかする。高い。
コールマンはホムセン用メーカー
まぁ、アウトドア用品。特にアメリカから来てるアウトドア用品ってのは、日本では高くなる。例えばコールマンなんてカナダとかじゃホムセンの商品なんだけど、日本くるとハイソなアウトドア用品店に置いてあったりね。
ノースフェイスは北米でもそこそこ高い
対するノースフェイスはアメリカでもそこそこなお値段です。つっても日本の価格から言えば半分とか3分の2くらいだったと思う。 まぁそんな価格で売っても売れちゃうような有名メーカーなわけです。
東南アジアで流通する偽ノースフェイス
さてそんなノースフェイス。
タイでも、カンボジアでもラオスでも。東南アジアに来たことのある人ならば一度はマーケットで見たことがあるだろうというほどめちゃくちゃ偽物が出回ってます。
大通り沿いでも偽ノースフェイス
しかもそんな偽物が平気な顔して大通り沿いで売られてたりするのが東南アジアのカオスなとこ。下手したらでかいモールで売られてるものさえ本物かどうか疑うレベル。
ハノイとか大通り沿いで大手を振って偽物売ってたりする。カオス。
偽ノースフェイスのメッカ。サパ
そんな中でも、僕が今いる町サパは、旅行者やお金持ちのベトナム人が避暑に訪れるベトナムの軽井沢なんて呼ばれる場所。山歩きや少数民族巡りなどアウトドア系以外にすることがない山の上の町だから、自然と偽ノースフェイスのメッカのような存在になっていったみたいにも見える。
町の中心街から少し入ったところ。だいたい赤い線を引いたあたりに外国人向けの通りがあるのだけど、大概がレストランとマッサージ、そしてこうした偽ノースフェイスが置かれているアウトドアショップだ。おそらく本物扱ってる店は一つもない。すごい。
なんで本物じゃないってわかるの?
で、なんで、本物じゃない…正規品じゃないかと言えば、まぁ色々あるけど、一番は扱いが雑なのだ。
暑に扱われる偽ノースフェイス
例えばお店のなかにこんな風にダウンジャケットが山積みになってたりする。
で、なんか獣クセーな、なんて思って見てみると同じ部屋で鶏飼ってたりね。
いやないでしょ、ありえない。本物だったら一着でフォー(ベトナムの麺料理)が200杯は食える。日本でラーメン200杯ってたら新しいマックが買えちゃうよ?本物だったらそんな雑には扱わないでしょ。絶対。
東南アジアでの交渉の仕方
ただ。今までだったらこんな大々的に偽物売りやがってウゼー。商売人としての誇りはないのか!とかって勝手に憤ったりしてた自分だけど、悪魔に魂を売って「偽物だっていいじゃん」モードになった僕はそんな風には思わない。
なぜって、考えてみればこんなに交渉に有利な条件はない。あっちはパチモン売ってて、こっちはそれを知ってる。と言うことはうまく使えば、こっちの買いたい額を相手に飲ませるだけの簡単なお仕事になるってことだもんね。
勝利への確信に高鳴る気持ちを隠して、偽ノースフェイスの表面をなでたり、縫製を弄ったりしていると、のそのそと店員が出てきました。
ヤァ、お客さん。お目が高い。こちらの商品いいんですよ!安くしときますよ!
彼が持っているのはゴアテックスマークの付いたジャケット。はなっからニヤニヤしてます。もうバカな旅行者を取って喰ってやった気満々でいるんでしょう。
へー、なかなかいいじゃない。いくら?
800000ドンにしときますぜ!
80万!?
いきなりやすい提示価格
思わずずっこけた。桁が多いので高そうに聞こえるけど、80万ベトナムドンといえば4000円くらいのもの。本物だったら2万切ることはまずない…日本なら6万くらい行くことだってあるはずだから安すぎだ。もう本物だと騙るつもりもないのかも。
いや、でもね。お客さん!この商品ね。水もバッチリ弾くんですよ。ほら見てくださいよ!
東南アジアでの提示価格は最低2倍
僕が「高い」と感じたと思ったのかすかさず、店員はすかさず売り込みをかけてくる。
いや、逆…むしろ安すぎるなって反応なんだけど…
防水性の証明をするというやいなや、いきなりペットボトルの水を商品のジャケットにぶち撒ける。その行動にびっくり。そしてきっちり弾くジャケットにもビックリ。本物じゃないにしても防水性能は本物らしい。
ニセモノ云々は別にしても、完全防水のジャケットならで4000円なら、それほど悪くないようにも思える。
…いやいや、騙されてはいけない!これはニセモノなのだ。そして自分の東南アジアの交渉セオリーに当てはめると、提示価格は通常価格の倍以上なのだ。
高いよ、負けてよ
無茶言わないでくださいよ〜!じゃあ特別に70万ドンにまけときますよ〜!お客さんだけですよ〜?
いや〜、まだ高いな〜
そんな〜。じゃあ旦那。いくらなら出せるか言ってくださいよ〜!
提示価格は安めを言うべし
これを待っていたのである。
ここで東南アジアでの交渉の雑学を一つ。
東南アジアで交渉が少し長引くと必ず出てくるのが、この「言い値」だ。
つまり買ってもいいなーという金額を言って、相手が売りたい金額との間とで妥協点を探していくっていう買い方なわけだ。
さっきも言ったように、観光地の場合、相手は少なくとも倍の金額を言ってきているわけだから40万以下の金額を提示して構わないと言うことになる。
ただ注意店を一つ。
自分が最初に提示した金額より下げるのはあまりいいとは言えないので、買ってもいい金額より、さらに少なめな金額を言うべし!
今回の場合のように、相手が売ってるのは販売価格よりもはるかに安いパチモンだとわかっている時には強気に行くべきなのだ。
20万ドン。
そんなー、旦那勘弁してくださいよー。うーん、じゃあ50万ドンでいかがです??
相手の反応を読むべし
注意点その2。金額を提示した時は相手の表情を見るべし!
安い金額を提示された場合の相手の反応っていうのは様々だけれど、あまりに安すぎる場合は向こうが怒ってしまい交渉はそこで終了となることが多い。
例えば今回の場合、10万ドンとか言っちゃうと、さすがに交渉継続は厳しいかもしんない。
でも交渉中止とならずに、最初の提示価格よりさらに下げた金額を提示してくるなら、そこまでむちゃくちゃに安いってわけでもない。つまりさらに値引きが可能なのである!
いや、まだ高いでしょ。22万でどうよ?
うーん、40万!これがファイナルプライスです!
ファイナルプライスはファイナルじゃない
注意点その3。
ファイナルプライスは全然ファイナルじゃない。
相手が言う最初の「ファイナルオファー」は、そこからさらに一段階下がるものと見てもいい。
まぁ、もしそれが本当にファイナルオファーで交渉を打ち切られたとしても、同じものを扱っている店は山ほどある。別にその店にこだわる必要はない。もっと交渉しやすい別の店に行こう。
最終オファーという提案は、大概、交渉の手動権を取り返そうとする手段にすぎない。
だがここで彼はミスを犯した!言ってはならない言葉を口にしたのである。
ほら、お客さん。ノースフェイスのゴアテックスが40万ドン(2000円)ですよ!お値打ちじゃないですか!
逆転裁判123 成歩堂セレクション Best Price! - 3DS
でも、これニセモノじゃん。
………。
否定も肯定もなし。というか沈黙は肯定と取って構わんな?まぁ最初からわかったことだけど。
本物がこんな値段で買えるわけないじゃん。25万ね。
…30万でどうでしょうか。
ここで一応最後の技を紹介しておこう。相手が往生際悪くこちらの価格に乗らなかったら、サヨナラを言って店から出ようとしてしまうのだ。
ここまで買うという意思を示した後でなら、十中八九乗ってくる。安く売るか、0になるかなら確実に安く売る方を選ぶのが東南アジア商人だ。
というわけで、こりゃもう25万で買えるな。と確信したのだけど、ふと視界の端に子供の姿が目に入った。店の奥の方で食事を取っていた店主の子供たちがこちらの様子をうかがっていたのだ。うーん…さすがにこれ以上は可哀想かな。
じゃあ、いいよ30万ドンで。
というわけで30万ドン(1500円)でジャケットをお買い上げ。
ありがとうございやす!もうこれね格安ですよ!新年割引ですよ!
一応自分の提示額が通ったとこで店員さんもニッコニコ。
交渉はお互い気持ちよくなれる価格で終ろう
レイフ先生の言う通り。やっぱりお互い気持ちよくなれる金額で交渉をしないとね。
実際に購入した品々
その後いくつかの店を回って、トレッキングブーツ。ウォータープルーフのズボンも購入。それぞれ35万ドンと25万ドン。日本円に直すといずれも2000円以下だった。
こちらがそのブーツ。偽物ではあるが、縫製もしっかりしていて防水性もある。
タグまで付いているという凝りよう。ちなみに日本語の翻訳まで再現されてました。
その労力を別の方向に向ければいいのに
GORE-TEXの文字が躍る。本物と同じものかどうかはわからないけれど、防水性はきっちりとある。
ジャケットも購入
WIND STOPERのタグがついたジャケット。外側は防水性。ウインドブレーカーの親分みたいな感じ。
水も弾くし。性能は相当いい。でも偽物のはず。でも性能はいい。なんだろう偽物の定義がわからなくなってきた。
使い心地はどうか
結論から言うと正直結構いい。
まだ長期で使っていないから耐久性とかは言えないのだけれど、縫製とかもしっかりしているし、防水性とかもちゃんとある。認めたくないけれど、正直悪くない。少なくとも。今まで着ていたしま○らのなんちゃってレインジャケットに比べればずっといい。
めっちゃ安い
何せめっちゃ安いんだよね。トレッキングブーツは1500円になったけど、日本で1500円ではこの質のブーツは買えないだろう。昔オーストラリアで買った無名メーカーの40ドル(3500円)のトレッキングシューズと比べても明らかに性能がいいのだから、コスパはかなりいいのだ。
個人的な意見で言えば、偽物のタグがついていないノンブランドのアウトドア用品として売ってくれれば抵抗感はなくなるのになぁと思うくらいだ。
本物のノースフェイスもベトナム製
ていうかなんでこんなことが起こるんだろうといろいろ調べていると面白いことがわかった。
なんでも本物のノースフェイスもベトナムで作っているらしいんだよね。いや、全部かどうかは知らないけれど、ブーツとかはそう。
本物ならば再輸入品…つまり高いはず
これをアメリカの本社に送って、再度各地のノースフェイスの店に送るって形になっているだとか。つまりベトナムでも米国本社を通した正規品を手に入れようと思うならば一度輸出したものを、再輸入する形になる。ヘンテコな話だが、つまりは本物ならアメリカでの販売価格より高くなるはずなのだ。
いい偽物と悪い偽物
というわけ格安で手に入るものは、正規に出回っているものではありえないということになる。その後も店を回って、こうした偽ノースフェイスを見てみると、三つくらいのタイプがある、というのが見えてきた。
つまり偽物の中にも、いい偽物と悪い偽物があるのだ。
粘られよ。左すれば質のいいものが出てこよう
ベトナムの場合、いい偽物を扱っている店と悪い偽物を扱っている店とで分かれているということはない。
いい偽物と、悪い偽物とが同じ店に並んでいるのが普通。
実際商品を見ていて、悩んでいる様子を見せると
これは質はいい!だからこっちはこの値段なの!!
とか言って、質の悪いものを商品を持ってきたり、その逆に質のいい商品を奥から持ってきたりする。
基本的に同じ店でも、店の正面や、外に飾っているものは偽物。本物やいいものは奥の方に隠してある傾向がある。
なぜこれほど安いノースフェイスが出回っているのか
多分東南アジアの偽ノースフェイスはこんな感じに分かれているのではないかと思う。
- 本物の工場からの横流し品
- 本物の工場で働いていた人が、偽物の工場を立ち上げ
- 中国から回ってくる粗悪な偽物
本物の工場からの横流し品
一つ目が本物の工場からの横流し。ノースフェイスの場合、どうやらバックパックを除けば、縫製ミスなど、本社の基準に満たない商品は、マークを入れずに廃棄される運命にあるらしい。
本物は高級品だから、基準はきびしい。だから試験をパスできなかった商品だとしても、見栄えだけの問題で、ものとしてはさほど悪くないのかもしれない。こう言った商品を別の工場に横流して偽のブランド名だけ入れる。
こうしてめでたく偽ノースフェイスが完成する。これが一つ目の可能性
本物の工場のノウハウを流用
本物の工場で働いていた人なら、どんな機械を使ってどんな縫製をして、どんな素材を仕入れているのか知っている人間もいるだろう。本物を縫っていた人で、やめた人だってたくさんいるはずだ。
同じ材料を仕入れて、同じ型紙を使って、本物を塗っていた人達が作る。
ものとしては本物と変わらないよね。ていうかここまでするならもう細部を変えて別名義で売り出せよ。買うから。
中国からの回ってくるもの
偽ノースフェイスの中にも出来の悪いもの。
特にダウンジャケットを語っているのに、中に入っているのが羽毛じゃなくて綿だったりするものは、中国とかから回ってきた劣悪なものだと思う。
ひどいのになるとタグのスペルが間違っていたり。そこまでひどくないにせよ。
見た目だけ似せているだけで、性能が伴ってないものは、間違いなく、中国から流れてきた偽物だと思う。
というかベトナム人によれば、偽物は全部中国製なんだというけれど、多分ベトナム製の正規のルートを通っていない偽物の商品もあると思う。
まとめ
ちょっとした思いつきから買ってみた偽ノースフェイス。
価格から見て、間違いなく偽物なのだけど、安ーく買って偽物など考えなければそれなりにものは悪くないという意外な結論になってしまった。
おかしい。元々は、やっぱり偽物は粗悪品だったよ!みんな本物を買おうね!っつって本物のノースフェイスのリンクを貼ったらバカ売れして、そのお金で自分も本物のノースフェイスを買って僕ハッピー。という算段だったのだけど、計画が狂ってしまった。参った。あ、でも一応リンク貼っておく。これね。
(ザ・ノース・フェイス)THE NORTH FACE BALTRO LIGHT JACKET ND91641 K S
ただオシャレさんでも富豪でもなく、靴や服は消耗品でしかない自分の立場から言えば、この質の服がこんな値段で 変えちゃうのはありがたい。
あとはモラルの問題。正直さっきも言ったようにメーカー名なしだったらもっと買いやすい。
というわけで偽物を作っているメーカーの皆さんは、さっさと偽物作りなんてやめて自社製品作りに注力してもらいたい。俺のために。
追記:写真の怪しい商人さんの画像にはLIGさんのパプリックドメインおじさん画像にあったツベルクリン良平さんの画像を使わせてもいただきました。キャラ定まってないとか書かれてましたが、顔立ちが整っているのに怪しい感じがバッチりでした(褒めている)ありがとうございます。